#2 fat jon : text and photograph:KOU FURUKAWA / interpret:MARIHITO AYABE[chimp Beams] 「サムライの精神とヒップホップの精神はとても近いと思っています」繊細かつ大胆。華麗かつタフ。ファット・ジョンの音楽性を簡単に表わすとこんな感じになるだろう。優秀なヒップホップ・プロデューサーでありながら、希代のインストゥルメンタリストでもある彼は、二律背反する要素を音楽に溶け合わせながら独特のパースペクティヴを提示する。まるでその多様性こそが彼が見ている世界だとでも言うように。──8月に来日し、「SAMURAI CHAMPLOO NIGHT」でもスピンした彼に東京で話を聞いた。
verse02 : サンプリングの荒れた質感の“美しさ”が好きなんです
── 『サムライチャンプルー』からちょっと話が外れますが、あなたの音楽はドラムに特徴があると思います。パターン、音色、グルーヴ……“美しい”とさえ感じるあなたのドラム・プログラミングは一体どうやって生まれるのでしょう?
fat jon : まず、ありがとう。そして……とても深い質問ですね(笑)。そう、まず常に心掛けていることは、一度使ったドラムのパターンは絶対に使わないようにしていることです。毎回毎回、ドラムのために大きな労力を払っています。同じように聴こえるかもしれませんが、パターン・音色・ミックス……いろいろな要素を少しずつ変えて、どれも違うようにしています。だからドラムについて誉められるのはとても嬉しいですね。

── 例えば何かにインスパイアされたりすることもあるんですか?
fat jon : うーん……難しいですね。まず、常に頭の中で完成されたドラムというのがあって、そこに実際の音が近づけるように作っていきます。影響という意味では、ですから私の頭の中にある理想のドラムが、影響の元ですね。それから私はドラム・マシーンやコンピュータを使って曲を作っていますが、できるだけヒューマンなグルーヴを出そうと試みています。“人間らしい”というのが私のドラムの一番の特徴だと思います。

── しかし、機械で音楽を作るということは、あえて人間には演奏できないことをするという利点もあるわけですよね。特にヒップホップにおいてはそのイビツささえ魅力です。あなたはそういったスタイルには惹かれないないのですか?
fat jon : もちろんそういった人工的なビートもいいと思うし、影響を受けることもあります。ただ私は自分のスタイルとして、プログラミングをしていてもあえて人間的なビーツをクリエイトしたいんです。

── それはビーツに限らず、音楽の好み自体がそうだということですか?
fat jon : そうですね。やはり一番影響を受けるのはオーガニック(有機的)な音楽です。

── サンプリングという手法についてですが、自分にとってサンプリングとはどんなものでしょうか?
fat jon : ピアニストにとってのピアノのように、ギタリストにとってのギターのように、私にとっては一番大事な楽器であり手法です。自分で鍵盤で弾いたピアノのフレーズでも、それを自分でサンプリングして使っているぐらいです。

── なぜそこまでサンプリングにこだわるのですか?
fat jon : 私はそもそもサンプリングから音楽を作り始めたんですが、サンプリングをした時に音が荒れた質感になるのがとても好きなんです。とても美しい音だと思っています。その美しさに私は惹かれるんです。サンプリングでしか出せない質感、空気感、それらが好きなんです。

── サンプリングを使わない、クリーンなサウンドを作ることに興味はない?
fat jon : 今、制作する時にはキーボードや音源を使ったりしていますが、それを使ってもサンプリング風の質感にするのが私にとっては一番大切なことなんです。

── あなたのサウンドは、音の空間設計がとても立体的だと思うのです。それは常に意識してやっていることなのですか?
fat jon : そうです。ミックスする際にはそれぞれのパートがどこで鳴っているのかを常に気にしています。音楽は、音がひとつの塊ではなく、スピーカーから拡がっていくようなものでなければいけないと思っています。

── そうした奥行きのある立体的な音づくりが、アニメーションのBGMとしてとても相性がいいと思いました。平面的な画面に奥行きを与えるというか。
fat jon : それは興味深い指摘ですね……ええ……でも確かにその通りかもしれません。

── 荒れたサンプリングの質感も、サムライの殺陣によくマッチしますよね。
fat jon : それも、その通り(笑)。画面を見ていつもピッタリだと感心していますよ。

── 今後、こういった形でサントラの仕事をやってみたいという気持ちはあるでしょうか。
fat jon : アニメーションでも実写映画でも、それが自分にとってポジティヴなものであればぜひ今後も参加したいですね。これは極秘ですけど、アメリカのアニメーションにも曲を提供するかもしれません。楽しみにして下さい。というか、私自身が楽しみなんですけどね(笑)。

── 8月に行なわれた「SAMURAI CHAMPLOO NIGHT」。感想はいかがでしたか?
fat jon : 本当に楽しかったですよ! フロアに飛び込んでみんなと一緒に踊りたかったぐらい(笑)。もっとDJもやっていたかったし、とにかく楽しかった。フロアとDJが一体化した、とてもいいイヴェントだったと思います。

── DJプレミアの曲をたくさんかけていましたね(※2)。ちょっと意外でしたよ。
fat jon : それはなぜ?

── いや、もっとメロウな曲ばかりかけるのかと思っていたから。意外とハードな選曲でしたよね?
fat jon : プレミアからはかなり影響を受けたし、彼の曲はフロアでよく響くように出来ているんですよ。クラブでかけるには最高の曲ばかりですね。それに他の曲とも繋ぎやすいんですよ。それでよく自分の曲といっしょにプレイしているんです。それから、いつもいろいろな曲をかけながらどういう選曲がフロアのヴァイブとマッチするのか考えながらプレイしているのですが、あの日はプレミアのサウンドがとてもピッタリだと思ったんです。

── 凄くいいDJでした。
fat jon : ありがとう。

── 今日はどうもありがとうございました。
fat jon : こちらこそありがとう。また今度ゆっくり話をしたいですね。

── こちらこそ!

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fat jon
profile
fat jon
アメリカ・オハイオ州のヒップホップ・グループ<Five Deez>のプロデューサー/MCであり、現在最も人気のあるプロデューサーの1人。無数のシングルや他アーティストへの楽曲提供など驚異的なペースでリリースを重ね、アンダーグラウンド・ヒップホップ・シーンの中では今や重鎮と目されている。また、ソロ名義でインストウルメンタル・アルバムを3枚リリース。こちらはハウスやR&Bなど要素も取り込んだオルタナティヴな音楽性で、世界中のクラブ・ミュージック・ファンから賞賛を浴びている。流麗で叙情的なサンプリング・センスと浮遊感の強い音響設計に長け、同時に無駄のないビート・プログラミングにも定評がある。現在ドイツ在住。

fat jon (Five Deez) New Album
Afterthought
Libyus Music
LMCD-005 ¥2,625(TAX incl.)
2004.10.28 Release!!

Libyus Music Official Site
disk information
departure   Samurai Champloo Music Record
departure
Nujabes / fat jon
impression   Samurai Champloo Music Record
impression
FORCE OF NATURE / Nujabes / fat jon
footnotes
※2 DJプレミア
MCのグールーと共にヒップホップ・チーム「ギャングスター」を結成するDJ/プロデューサー。ミニマルかつ研ぎ澄まされたサンプリングの使い方とファットなビートで90年代のヒップホップ・シーンを牽引した。もちろん現在においてもシーンの最重要人物のひとり。
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